感想記事 / 本

病院坂の首縊りの家

醜女も美人も総じて強い

今回感想がちょっとやかましいです。

途中まで超怖い。 夜通しで一気読みしたのも原因かもしれないけど、過去に読んだ金田一作品の中で一番猟奇的に感じたし怖かったです。

『八つ墓村』とかも物語はかなり怖いけど、昭和版映画のあたたかみある手作り感丸出しの生首(偽物)が脳に浮かんでくるので、映像としてイメージしてもそこまで怖く感じません。

『病院坂の首縊りの家』はタイトルも仰々しいですが、実際には首縊りではなく切断された生首がメイン✨、そしてその写真が物語の展開上何度も出てくるのがグロテスクな印象を受けました。

金田一シリーズもだいぶ読み進められてきたので、他作品と比較してこうだったな……を書いていきます。

女性キャラの存在感がある

女性の目立つ金田一作品というと『悪魔の手毬唄』がパッと浮かびます。1人の男を巡る母世代・順に殺されていく娘世代と、それぞれに濃さがあって大好きなんですが、『病院坂の首縊りの家』も似たような構成になっています。

(脇道:それはそうと『三つ首塔』は女をアホに書きすぎだろと呆れてしまい断念、『女王蜂』は未読なので女の目立つ金田一作品をあんま読めてないかも)

『病院坂の首縊り家』は「聖書か?」と突っ込みたくなるほど、序盤にタラタラと家族構成を書いています。大事な家柄の血を引く男は大体死んでいるため、必然と女がメインになっています。

ほんでもって(女は)全員気が強い

怖いポイント2です。 全く気が休まらないほど全員気が強いです。 「気が強い」がただヒステリックの枠に収まる感じではなく、腹が決まった時の行動力が半端ないという意味で気が強いのです。

優柔不断なところが目立つ男性キャラクターたち+憎めないかわいさのある金田一という布陣という比較対象があるゆえに目立ちます。

金田一作品だとブス女はロクな目に遭わないがちですが本作ではそんなこともなかったりします。

ただし醜女も美人も総じて強い。 『八つ墓村』でいうなら春代がいなくて全員美也子みたいな……。

前半の殺人が少ない

  • 時効になってしまった過去の事件
  • それから20年後の現在 という2つの時間軸が存在するのですが、「過去の事件」のほうでは1人しかはっきりとは殺されないため、いっぱい人が死んで欲しい‼️と思うと拍子抜けしてしまいます。

ただその1人が生首風鈴というエキセントリックな死に方をしているので、私は満足です(?)

ネタバレあり感想

思いのままに書いています。 逃げろーッッッ!!


実質のところ

これって実質死体埋め百合作品やん?????

小雪と出会ったことで、万里子や由香利は猛蔵の血筋ではなく、間違いなく夫の血を引く娘/孫娘であったと弥生は気づきます。 しかし気づいた頃には2人とも亡き人です。

弥生は『仮面舞踏会』の鳳千代子をもうちょっと土壇場の覚悟ガンギマリにした感じで、平生は周囲が思っているよりずっと上品でマトモな感覚を持っている女です。

曲がりなりにも育ててきた孫娘が死に、今まで勘違いで冷遇してきたことを悔います。 そんな中で由香利の替え玉として小雪を後釜に据えると決め、後継者として立派に育て上げる過程は描かれていないものの、想像を絶する苦難であったとは思います。

初対面の夜に一緒に大男の死体を運び、そのあと20年にわたり秘密を共有し、家族として過ごしてきた 👆すごく百合。

小雪視点のことはそれなりに描写されているのですが、弥生が何を考えていたのか言葉の少ない点がより魅力的だと感じました。

男はどうなの?という話

こんなにも露骨なので意図的な配置だと思うのですが、見た目が屈強な男であればあるほど中身が情けないのが本作です。

まず殺されて生首風鈴になってるビンちゃん。 こいつが情けなかったのがこの悲劇の原因の8割を占めると言っても過言じゃありません。

  1. 血の繋がってない義理の妹と愛し合う
  2. 貧窮し妹の父宅(本妻の家で妹は妾の子。父親は死亡済)を頼るもボロクソに帰される
  3. 憎しみのあまり、妹によく似た本妻宅の孫娘を誘拐
    👆まあわかる
  4. 口論になったので誘拐した孫娘をレイプ
    👆妹への愛は???
  5. 誘拐解放後も誘われたので孫娘と逢引交尾
    👆妹への愛は??????
  6. 実は罠でボコされて相討ち(死亡)

生い立ちこそ不幸なものの何から何まで自業自得で死んだ上に、最愛(笑)の妹に死体処理という大迷惑をかけるどうしようもない男です。

「舞台では上半身裸でフサフサの胸毛に汗が滴るのを女性ファンがうっとり見つめる」だの「ピチピチのズボンに股間のもっこり」だのがしつこく描写されるのですが、死に方を考えるとホンマに失笑です。 たぶん横溝に嫌われてるんだと思います。

次にビンちゃんのバンド仲間である哲也。 こいつはケンカをしに行くつもりでビンちゃんのところへ向かうとあらびっくり生首風鈴と遭遇!そのまましばらく意思疎通不可能なショック状態に陥ってしまいます。

小雪が息絶えた兄を生首風鈴にして、弥生と一緒に首から下をトラックで運び込み&1人で土に埋めたのと比べるとあまりにも情けない有様です。

鉄也が実はビンちゃんの落とし胤ではないか?と疑ったときも、なぜか堂々とはぶつからずコソコソと足繁く鉄也の学校へ通います。 

しかし、高校生の関根美穂にラブホテルへ誘われるも断り、何か事情があると見抜き健全に食事へ連れて行くなど、現代的な倫理観の持ち主に仕上がっている面もあります。

ラストに貞子へのプロポーズをようやっと決意する場面もあり、ビンちゃんに比べると男らしさが立っていると言えましょう。

続いて法眼の跡取り息子である鉄也。 20年前と時代の変化を感じさせるためなのか、単に思春期の悩み多き少年を書こうとしてそうなったのか、過剰にナイーブな性格をしています。

(どうでもいいけどテツヤが主要キャラ内に2人いるのは横溝が寝ボケてたんか?)

それを補うかの如き行動力の化身・関根美穂が彼を助けようと面目躍如の大活躍です。 鉄也は彼女に誘われて童貞を喪失し、彼女の捨て身の証言で留置所から出られたわけです。

法眼滋については思うところがあり、下記に別枠で記載します。

『本陣殺人事件』との比較

男性キャラクターがステレオタイプな男性像から離れていることを散々書いてきたのですが、その最たる例が法眼滋(旧姓:五十嵐滋)です。

上巻の彼は年齢と比べて極端に幼い話し方をします。しかし下巻ではお飾り社長ながらも無難に仕事をこなしている描写があり、また彼自身お飾り社長という立場に不満を持っていないことが明示されています。

その温厚(草食系?)な滋は鉄也が己の血を引く息子ではなかった、ということを知り、殺人計画(そして殺人の咎を鉄也へ押し付けること)を立案します。

『本陣殺人事件』で、 一柳賢蔵は新妻が処女でないことに激怒し、妻を殺害します。 翻って『病院坂の首縊りの家』の法眼滋は托卵の事実を知り、その殺意の矛先を息子や種馬(ビンちゃん)の友人へ向けます。

(実際には托卵どころか妻が由香利→小雪へすり替わっていたために起こったことだけど……)

女の所業により男としての立場が揺らいだ場合の怒りの向き先が、なぜ賢蔵と滋はこうも真逆なんだろう?と気になりました。

賢蔵にとって妻たる克子は自分の所有物であり、自分の一部でもありました。だから克子の裏切りを知ったときには克子自身に復讐をした。

反対に滋は「小雪の(ひいては法眼家の)所有物である自分」に誇りを持っているため、その役割を果たさせてくれない(=自分の血を引いていない)鉄也を狙ったのだと解釈しました。

『本陣殺人事件』と『病院坂の首縊りの家』の間の30年ってあまりにもデカく、その30年で貞節の価値は低い方向へ流れている(そして現代に至っている)ので、後者の作品の方が読んでいて面白かったです。 『本陣殺人事件』は今読むともはや古典だなという気持ちになるので(?)


角川文庫から出ている金田一耕助シリーズも半分以上は読みましたが、まだまだあるなとびっくりしています。 あと『不死蝶』『死仮面』はこのシリーズに入ってないんですね。なぜ……??

次は忘れないうちに映画『オデュッセイア』の感想を書きたいです。

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